春山合宿:北ア硫黄尾根(硫黄岳〜赤岳) 2002.05.03〜06

 総合力が試される硫黄尾根。今年の雪山のまとめとして取り組むことにした。北鎌尾根に並ぶクラッシックルートである。登高距離は8-9kmに及ぶロングルートであり6峰を数える硫黄岳ジャンダルム群、8峰の赤岳ジャンダルム群、そして5峰の赤岳を越えていかねばならない。

 2日仕事終了後、名古屋へ移動。5000円のビジネスホテルに1泊し、3日の朝、JR特急で松本ー大町へ。タクシーで七倉のゲートへ急ぐ。登山届を提出し連休後半の入山者数聞いたところ北鎌尾根40名、硫黄尾根なんと1パーティ2名とのこと!槍ヶ岳山頂に直接突き上げる北鎌に人気が集まるのは仕方ないか。七倉〜高瀬ダム間は運転手+4名までの乗車しか認められていないので2台に分乗する。聴くところによると東電の指導で、運転席は安全確保のため乗車は2名まで、とのことである。そこまでしなくとも・・・・、まあいいか、安全過ぎて不都合はないから。

 11:45高瀬ダム出発。湯俣まで10km弱の道をのんびり行く。軽装の女性2名を追い越す。どこへ?と聞けば湯俣の温泉です、と。ふ〜ん、とあまり気にはしなかったが・・・側溝の水溜りに群れるカエルに春を感じながら2時間半も行けば待望の湯俣着。


天候に恵まれ気持ちよくスタート
:高瀬ダム
オアシス:湯俣温泉 木陰で飲む昼下がりのお酒は格別!

河原の素掘りがそのまま温泉!それを楽しむために3時間のアルバイトを厭わず訪れる”お湯だらー”。なるほどわざわざ歩いていく価値のある温泉なんですねえ。ここはオアシスですよ。まさしく天然温泉のオアシス;”湯俣”生活が満喫できそう!

 我々もちょっぴり味わいました。乾いた砂地の河原に幕営、持参したお酒でのどを潤しお湯につかる、春風そよぐ晴天のもと心地いい沢音を聞きながらぼんやり遠くの雪嶺を眺める、贅沢ですねえ。1日目はかくも快適だったんですが・・・・・。

 2日目は、小雨であける。雨足は細い。予報通りなので気にもせず予定通り3時起床、標高約1400mの湯俣を5時出発。今日はできれば南峰までは行きたいが、天候次第だろう。荒れなければいいが、と念じながら出合から水俣側に入りすぐ吊橋をわたる。


 15分ほどで遭難慰霊碑のある取付き、急登40分強で尾根上に出る。後はひたすら足元見つめて樹林帯を行くのみ。標高2000m付近にテント1張。これがもう1つのパーティのようである。(後で聞いたら京都の2人パーティでした。)
 停滞かな?我々は悲しいかな休暇が限られているので留まるわけには行かない。2100m過ぎるといよいよ硫黄岳ジャンダルム群に入る。雨はやみそうもなくしとしと降り続く。P1,P2は難なく通過、P3の下降は懸垂2回で3..4のコルへ。雨とガスのせいで彼方にそびえる硫黄岳がやけに高い。
 P4,P5,P6と急なブッシュの尾根、岩稜、崩れそうな雪壁の登下降を続け小次郎のコルを通過、標高差およそ300mの硫黄岳にとりかかる。このあたりでほぼビショ濡れ。ゴアテックスの雨具もあまりあてにならないねえ、とぼやきながら歩くのみ。(かなり使い込んだ雨具を着てるくせに!)
O&Kはワングレード低い靴のため靴下を絞れるほどびしょびしょ!不快この上ない。

硫黄岳ジャンダルム群へ向かう 硫黄岳ははるか彼方!

硫黄岳ジャンダルム群を越える。左から2枚目はP3からの懸垂下降
 12:30頃硫黄岳三角点(2553.6m)通過、三角点の標柱が確認できるくらい雪はない。硫黄台地へ急ぐ、とハイマツ帯に進路を絶たれる。積雪が少ないためハイマツ帯が人の背丈ほどになり見通しが利かない。やむを得ずハイマツ帯に入り込みルートを探すが判然としない。一旦北側の尾根に出、下降しかかったが間違いに気づき引き返す。そのうち硫黄台地に続く尾根を見出しようやくハイマツ帯を越えた。
 雨はやまず、風も強くなってきた。硫黄台地をはずすとこの積雪では適当な幕営地がなさそうである。13:45本日の行動打切りテント設営とする。全員濡れ鼠のため停止すると寒い寒い!テントにはいっても冬だったら乾くはずの下着が乾かない。仕方ない、シュラフに吸い取ってもらうしかないか。勿論、濡れた靴は乾くはずもありません!
 夜は一時的に雨風おさまったが夜半過ぎから雨はたいしたことないものの強風が吹き荒れた。K,H,Aはダンロップの新品で居住性抜群!一方、O,Aはふる〜いダンロップのため・・・・。買い換えるしかないですよ。
 3日目、今日は本コースの核心部である赤岳を越える日である。30分遅い3時半起床、テント撤収して5時半出発。天候の回復が遅れているようで風強く時々小雨、視界も時々閉ざされる。台地から少しで又、ハイマツ帯。その向こうが急下降+懸垂下降の雷鳥ルンゼである。ここで尾根を取り違え別のルンゼを15mほど下降した、が間違いに気付き登り返して正規ルートへ。ルンゼの上部は雪壁だが途中から急なガレ、そして最終は懸垂下降となる。降りた地点から左にトラバースして尾根筋に戻る。そこからは問題のない南峰への登りである。
 雷鳥ルンゼを過ぎ南峰に登るあたりから天候が回復してきた。時々、青空が見える。しかし、誰も天気のことは言わない。天を指差してニヤリと笑う。今冬は希望的観測がほとんど悪天を誘ったからネ。でも胸の内では確信してました。快晴になると!

 南峰は残雪がほとんどなく幕営は厳しそう。結果的には硫黄台地でよかったようである。ここを下るといよいよ赤岳ジャンダルムの岩峰群に入る。赤茶けた岩肌が剥き出しの尾根筋には残雪ほとんどなく岩峰に入込むルンゼも雪は僅かである。雪が少ない分だけ厳しい登行になりそうである。


硫黄台地で幕営:寒い、寒い! 南峰〜赤岳を望む 雷鳥ルンゼ

 P1は湯俣側を巻く。前回まいたP2は、雪のないガレた急斜面を避け1.2のコルから直登、頭を越える。懸垂下降で2.3のコルへ。ブッシュのついたP3はリッジ通しに通過、3.4のコルへ。P4はすっきりした岩壁、快適な登攀で頭へ、下降は20m×2回の懸垂で4.5のコルへ降り立つ。P5、P6、P7はリッジ通し通過、7.8のコルからP8はパスして直接中山沢のコルへ懸垂下降する。書けば簡単だが4時間はゆうに費やしている。
P1からP8までの赤岳ジャンダルム群を越えていく。2枚目はP4、右端は中山沢のコルへの下降。

 中山沢のコル、12:30着。20分程大休止後、今日の幕営予定地である白樺台地へ向け出発。すでに7時間経過しており岩稜登下降のため緊張の連続で疲労が激しいがもう一踏張りである。ここから白樺台地までは2時間ほどの行程、岩稜ではあるが今までよりは容易な登行になる。
P3下降路より望む赤岳{左}と北鎌尾根〜槍ヶ岳
【赤岳ジャンダルム群の登下降】
 全体としては難しくても3級程度の岩場であるが20kg近いザック背負っての登攀は結構厳しい。又、ルートファインディングを間違うと立ち往生しかねない。捨て縄のあるところはためらわず懸垂下降したほうが安全である。最も危険性を感じたの登路中の浮石である。ルンゼは勿論尾根上も浮石だらけである。その為、危険地帯は互いに声を掛合ってスタカットで通過した。落石、そして浮石をつかんでの転落に要注意!
 アルペン的な赤岳(2416m)を越え、ブッシュ剥き出しの痩せたリッジを越えれば残雪豊富な白樺台地だ。やっと着いた。時刻は15時を廻っている。10時間弱の今日の行程は本当に疲れきった感じだ。体力、精神力共に消耗した1日となった。整地しテント設営するまでの時間、シュラフ、雨具、マット、等の濡れ物を取り出し少しでも乾けば・・・・とまめに動き回ったおかげていくらか気持ちのよい夜を過ごすことができた。
 4日目、今日は仕事の都合でどうしても北九州まで帰らねばならない。30分早め2時半起床、4時半出発とする。今日は自ら転ばない限り安全地帯、1時間弱で西鎌尾根に続く稜線にでる。快晴のもと少し時間を気にしながらも雄大な眺望を楽しみながら登行を続ける。日程的に槍ヶ岳登頂はあきらめていたが、そうでなくとも槍ははるか彼方!行かないだろうなあ。それ位、労力を要する尾根である。千丈乗越(2734m)から槍平ら目指して下降する。雄大な雪面はまだ良くしまっており歩きやすい。槍平着8:40。ほぼ予定通り。遅くとも1時には新穂高に着けそうだ。大丈夫、北九州まで本日中に帰れる。

西鎌尾根からの赤岳 千丈沢乗越まで結構きつい
アルバイト
穂高〜焼岳〜乗鞍を望む

 10分ほど休憩、下降開始。2000年正月取り組んだ南岳西尾根取付を通過、滝谷出合いへ。この辺から飛騨沢の残雪は大きく割れその間から雪解け水が轟々と噴出している。その量は夏をはるかに上回りまさに”春は勢い”というにふさわしい。滝谷出合いは丸木橋はなく適当な地点で渡渉する。さらに進んで白出沢出合いへ。

 このあたりから夏道が出ており歩きやすくなる。やがて林道。大休止、そして腹ごしらえをして新穂高へ向けもう一歩きだ。快晴のもと春風を受けながら歩くと沢音が耳に心地よい。右手には芽吹き始めた新緑の彼方に真っ白な笠が岳の稜線が望まれる。下山であることも手伝い解放感で足取りも軽い。


見通しが立ちくつろぐ嵐パーティ メルヘン的な穂高平

 やがて本山行のフィナーレにふさわしい穂高平に着く。2001年正月お世話になった穂高平避難小屋前で休憩。12/29の夜いただいたホウの木の風呂が懐かしい。

 牧場は今しがた若草が芽吹いたような鮮やかな緑である。遠くに笠が岳の山並み、振り返ると穂高のキレット〜南岳の山並み、槍の頭ものぞめる。ゆったりくつろぎたい気分にかられるがそうもいかない。さらに水量を増した蒲田川(右俣谷)の轟音を聞きながら12:15新穂高バスセンター前に到着した。

 頭も体も使い切った山行であったが、初日とラストが快晴に恵まれ大満足の山旅になりました、とお天道様に感謝しなきゃいけませんね。皆さん、御苦労様でした。
(Y.Kubo記)
■参加者:新、原田、岡村S、赤澤、久保の5名
■主要装備:ザイル;9mm×40m×2本、8mm×15m×1本、テント;狭い場所でのビバークを考慮小×2張、ハンマー&ピトン類;1組、EPIガス5ヶ、ヘッダ-2ヶ、登攀具;各自(ビナ、シュリンゲ、8環)、その他通常の春山装備
■タクシー代:大町JR〜高瀬ダム:10,190円(2台分)、新穂高〜JR高山:15,000円
■温泉:新穂高バス停前のアルペン浴場(無料)で済ませましたが時間あれば露天風呂がここかしこにあります。この浴場、正月はあいていません。