伯耆大山(北壁):別山バットレス 2002.03.24

 「雪、ないねえ」、枯れた草原と化した桝水原スキー場を通過しながら溜息。このところ暖かい日が続いたのでほとんどとけてしまったようだ。環状道路沿いも残雪はなく、下山キャンプ場駐車場も隅っこに僅かにあるだけだった。明日は、残雪期の山だな、といいながら酔っ払いのテントの騒音も気にせず早めに就寝。しかしやっぱり日本海側ですね、予報どおり弱い冬型の気圧配置は裏切りません。朝起きると駐車場で3cm程度真っ白、でもない少し黄砂混じりの新雪があり、周りの景色も一変し冬景色に変わっていました。いやいや我々のために御化粧してくれたのですか、有り難う!4人とも相当気分を良くし登山届を出し6:10出発。今回の目的は別山バットレス登攀。今日は視界もいいし冷え込んでいるので残雪がしまり快適な登攀が期待できそうだ。


 冬の雪は大神山神社あたりまではほとんどとけてしまっていたようで、今朝の白さは昨夜の降雪によるもののようです。神社裏手あたりから汚れた残雪がちらほら、でも今日は少し御化粧してますからなかなかきれいです。元谷に続く林道からは別山が望まれやる気がわいてくる。元谷に出、弥山沢左岸に沿って登行開始。歩き出してまもなく風が強くなり雪が舞いはじめた。しかたなくヤッケ兼雨具を着込む。気温もぐんと下がりまるで冬山ではないか!弥山沢左岸に沿っていく。傾斜が次第に増す。弥山尾根取り付きを左に見送り更につめる。しばらくして右の別山尾根に向かい急な雪壁を直登する。真中の支稜の末端が別山バットレスの取り付きである。このあたりまでは視界まあまあであった。

暗夜行路ゆかりの地
(大神山神社入り口)
林道から北壁を望む 弥山沢を行く

 8:07尾根末端着。足場を切り、登攀具をつける。ザイルシフトは、久保/赤澤、原田/新とする。8:18登攀開始。1P目、尾根左側の急な雪壁に取り付く。15cm程の新雪を丁寧に払いのけステップを切り40mいっぱいで尾根に這い上がる。2P目〜4P目まで木登りとピッケルのピックを利かした登攀が続く。所々出てくる露岩は凍結していないためグラグラ!木登りも結構厳しい。しかし傾斜はさほどないのでその分気楽である。いつのまにかすっかりガスに覆われ少量ながら降雪は続く。視界は30m位。晴れれば向かいに弥山尾根が見えるのに、と思いながらピッケルを打ち込みブッシュをつかむ。

 4P目が終わるところは急傾斜の雪壁、そのあと傾斜をました岩稜が続いている。スノーバー2本固定、ビレーを取る。5P目からが本ルートの核心部。出だしにリングボルトあり。ランニングビレーとって慎重に乗越す。久保/赤澤のザイルは実長43mくらいで次のビレーポイントまで少し足りない。仕方ないので途中で切り、セカンドにあがってもらい尺取虫になって登攀を続ける。6P目も岩稜とブッシュの出た雪壁。ブッシュとピッケル、そして出っ歯に体をあづけ傾斜のました壁を攀じ登る。必死でブッシュとピッケルつかんできたのでだんだん握力がなくなってきた。しゃきっと力が入らない。我慢、我慢!

5P目ここから本番 フォローする新 トップで頑張る原田 終了点目前!

 まだガスは晴れない。時折、降雪がやんでほのぼの明るくなったので、「回復して来たなあ。よくなりそう」といった途端、大粒の雪が?あられか雹か、シャワーのように降りだした。見るまにトレールを埋め岩の間から沢水のように流れ下る。いつもこうだ。ほめると逆になる。ああ、やっぱり口にしてはいけないのである。山ではだまってニタニタしているに限る。7P目、ボルト3本埋め込まれたビレーポイントから5m程のジェードル状の岩場を、スタンス、ホールドを掘り出してのりリ越える。あとはブッシュまじりの雪稜、ピックと出っ歯のコンビで登る。やがて終了点が見えてた。最後は新雪をまとっているだけのボロボロの岩の詰まった泥壁。全く凍結なし。だましだましのぼりピークに飛び出す。

 12:20久保がピーク着、続いて赤澤、更に原田/新が到着。12:50、ザイルパートナーごとに記念撮影。山頂にはビレー用のシュリンゲがしっかり固定されている。別山は、元谷に突き出た展望台みたいなもの。山頂は狭く、畳1−2枚くらいか。向こう側は弥山沢にスパッと落ち文字通りのナイフエッジになっている。周りが見えたら多分、お尻がムズムズするような光景のはずだ。しかしガスはまだ取れない。残念!時折沢の新雪が吹き上げられ雪煙が舞う。

最終ピッチを終え終了点に這い上がる若手と先着のオジサン達

 さあ、ここからが今日のハイライト!山頂より右に伸びる痩せ〜た尾根にまたぐ。またがなければ通過不能なのです。40m弱で別山西壁ルートの終点のコブにつく。ここはたたみ半分。これにまたいでビレイ、後続を迎える。ここまでは比較的スムーズ。次は?と夏道のある大山本体の方をみた。うう〜ん、うなってしまった。これはなんだ!コブから下降気味に更に激ヤセの細いリッジが続いている。尾根というより左右2つの沢を仕切った板みたいなものでまたいでもどちらかに落ちそうで気分が悪くなりそう。サイズの大きな砕石を積み上げたような鋭い鋭角のエッジで右は別山沢、左は弥山沢にすっぱり切れ落ちている。しかも凍結していない。

 気分はよくないが行かなきゃ帰れない。久保トップでまたぐ。右足が別山沢、左足が弥山沢だ。ボロボロだから両足が決まらないので尻をずる様にしてジリッ、ジリッと下降。尻の移動と同時に石もついてくるので停止しては尻の下にたまる石をのぞく。じわじわ移動、と尾根が切れた最低部のミニミニキレット。コブから15mくらい。キレットといってもたかだか2m程度の隔たり。ああ、ここが最大の核心部だ。一息入れそろっときれ込む直前までジリッと移動、倒れるようにして目前のコブをつかんだ。ウフッ!そこにはブッシュがあったのです。ブッシュつかめばこっちのもの。そのコブから先は尾根は細いけどブッシュがありそれをつかみ慎重に通過。


ガスが取れ歓声をあげるオジサン ブッシュをつかんで下降する新 エッジをまたぐラストの原田

 きらめくライトのないハイライトシーンはありません。オオッ!大歓声。そうです。まさにその時ガスがさっと取れ光量豊富な春の陽光のもと雪をまとう大山が3Dパノラマの如く眼前に姿をあらわしました。すさまじいほどの立体感です。深く切れ込んだ弥山沢、別山沢、元谷から急角度で立ち上がる北壁、目前には弥山沢をはさんで立ち上がっている弥山尾根。今回もいただいた自然の御ほうび!やりましたね、ようやく登攀終了の感激が沸いてきました。ふと夏道を見ると見学者多数。すべての舞台装置が整ったなか順次このエッジを無事通過。30m程のエッジ通過に小1時間を要した。

稜線への最終ピッチ 別山をバックにフォローする新 夏道から望む別山

 エッジ通過後、30分弱のアルバイトで夏道のある稜線着。時刻は、14:20である。取り付きから6時間強、飲まず食わずであったため急におなかがすいてきた。しかし今日中に北九州まで帰らねばならないので先を急ぐ。6合目小屋でアイゼンをはずし、行動食を少し取りシリセードで元谷に下る。大山寺着16:00。今年これで3回目になる食堂でビールで乾杯、大山ソバ定食を食べ駐車場へ。駐車場到着16:33。今日の行動時間、約10時間、皆さん御苦労様でした。最後は天候が回復し充実した山行になりました。(Y.Kubo記)


別山概念図 夏道から望む別山

■岩稜が出てくる5P目以降は要所要所に残置されたボルト、ハーケンあり。丁寧に登れば難しくない。50mザイルいっぱい使えば5-6PでOK。今回は安全第一とし全行程で10Pザイルを出しました。トップはアイスハンマーもってたほうが楽です。当然ですが。
■写真は、全て赤澤さん撮影。従って本文中になかなか登場しません。あしからず!

伯耆大山北壁概念図

■3/23、15:50橋本邸出発。今回は時間が早いので183号線の交通量を考慮、新見〜180号線経由としました。SAでの夕食、ポプラでの買出しをして21:30過ぎ下山キャンプ場駐車場着。やはり庄原〜183号線経由より30分以上早いようです。
■帰北:新千屋温泉経由、新見IC18:56にのり、途中食事鹿野SAで夕食、橋本邸到着が22:45頃でした。
■参加メンバー:新、原田、赤澤、久保の4名

BACK