春山合宿:北ア赤谷尾根〜劔岳  2003.05.01〜04

 参加者5名の内、3名は『雪の剣』ははじめてである。どうせ行くなら最も剣らしい剣見れる尾根、ということで『剣見るなら赤谷尾根でよ♪』の赤谷尾根から北方稜線を経て剣岳本峰を越え早月尾根を下降することにした。3泊4日の行程である。

4/30、19:00小倉南区出発。山陽道〜舞鶴道〜R27〜敦賀〜北陸道を経て立山ICで高速を降りる。
 上市の24時間スーパーで朝食を取りベースの馬場島に向かう。ネット情報では馬場島まで入れない年もあったようで気になっていたが本年は何事もなく入れた。5kmも歩かされないでよかったヨ。


5/1、6:34駐車場到着。休日の並びの悪いGWのせいか閑散としている。残雪は殆どなく日に日に春が勢いを増しているようだ。快晴で新緑が芽吹き吹き渡るさわやかな風が心地いい!
登山届を出す。連休後半で赤谷尾根1番乗り!とのこと。本日は我々5名のほかに2人パーティが入山予定らしい。

馬場島出発! 雪解けで水量豊富な白萩川 尾根取付の急登

 7:20、身支度を整え出発。車道歩きがなかったので目標は1800m以上。早月尾根取付の三叉路を左折、残雪のある車道を行く。数箇所のデブリを越え35分で白萩川にかかる橋を渡る。橋を渡った所がブナクラ谷出合で赤谷尾根の取付である。標高885m。

 小休止の後、赤布のある所から取り付く。緩やかな台地を右よりに詰め正面の雪のルンゼにはいる。早朝の為かガチガチだ。靴のキックでステップを切りながら登行。登るほどに傾斜がでてくる。上部は傾斜が強そうなので中ほどから右手ブッシュ帯に移る。殆ど腕力勝負の木登り主体の登行で尾根に這い上がり一本たてる。いや〜いきなり疲れました!

 切れ切れに踏跡の尾根をたどる。ヤブも傾斜もさほど酷くないが、取り付きの木登りや夜行の疲れがのこり結構しんどい。1500mまで登ると視界がグ〜ンと開ける。『剣見るなら赤谷尾根』とはここらあたりから上部か。山岳を立体的な迫力で見るには遠すぎては大きさが感じられず近すぎては視界をはみ出してしまう。最適な見上げる角度がある。丁度カメラでズームインした時、立体感を味わえる距離、多分赤谷尾根は標高と距離が最適なんだろう。

 標高1800mの展望台地着。時刻は13:00。行動打ち切るにはチョット早いが、剣見るならここが間違いなくベスト!ここで幕営することで決定。テント設営後、日没まで『北方稜線〜剣』を楽しんだ。


早月尾根〜剣岳を望む ブナクラ谷と猫又山

そろそろ展望が開けてくる 稜線のコルは左から大窓、小窓そして小窓尾根

標高1800mのテントサイト 小窓〜小窓尾根〜早月尾根と剣岳

5/2、快晴、5:20出発。起床は4:30だが、前夜に朝用と行動水を作り、アルファ米も炊いているので時間は余りかからない。1800m以上は稜線にブッシュはなく雪稜である。赤谷山が近づくにつれ傾斜がきつくなる。山頂直下の雪面に続くナイフエッジを慎重に通過、急傾斜の雪面はジグザグに登行、やがて傾斜は緩みだだっ広い雪原の赤谷山山頂(2258m)に出る。南方は鋭い尾根の頂点に立つ鋼のような剣、北方には毛勝山〜猫又山のどっしりとした山塊、東方には白馬〜鹿島槍〜針木の後立山連峰が一望のもとだ。

 すこぶる気分がいい。山頂にはテント一張り。単独行の方で、ブナクラ谷〜ブナクラ乗越経由とのこと、昨日我々の後に入山したとのことで稜線に出るのが目的ならブナクラ谷経由のほうがずいぶん楽だ、とのことである。

赤谷山山頂 尾根上部から:朝の剣岳

 小休止の後、縦走開始。白萩山(2269m)は左雪壁をまいて通過、赤ハゲ、白ハゲはほぼ稜線どおし潅木をからんだり雪稜を踏んだりしながら行く。先行者が2人いるようだ。白ハゲから稜線はジワリと下り大窓に落ち込む。

 大窓へは途中から右手に派生する支稜にとる。下降地点で2人連れに追いついた。ハイマツ帯からルンゼを下降、主稜を回りこんで大窓にでるのがルートであるが、方向を右にとりすぎ岩場上部に出たため懸垂下降で降りた。

 大窓着が11:00。5時間を経過、少々疲れが出てきたため大休止。残雪はなくいい風が吹き抜ける。天気よすぎて暑いためやたらのどが渇く。水分補給の為雪を溶かし水を作りのどを潤す。2人連れは大窓から大窓谷を下降、馬場島に下山とのことである。一部傾斜は強いが困難ではない、又小窓からも西仙人谷経由で下降でき技術的には同程度とのことだった。

50分ほど休止の後、本日の核心部?標高差約330mある大窓の頭への登りにかかる。稜線上に残雪はなく潅木を縫いながら切れ切れの踏み後をたどる。大窓までの疲れも有り2500mのピークまで2時間を費やした。

ピークから西仙人谷側に断崖を持つ池平山(北峰〜南峰)が望まれる。まだ遠い!池平山の前にもう一つ岩峰がある。これを越えねばならない。休憩して岩峰の壁の中にルートを探すが判然としない。いけばわかる!少し下降、稜線をたどると鋭い岩塔とのコルに出た。

縦走スタート 赤ハゲ〜白ハゲへと進む

 岩塔は3面とも壁で直登できそうもない。通常、こういうところは巻くのが普通、当然雪にルートをがあるはず・・・北側の残雪を巻いて行く・・・・なんと岩壁に張り付いた残雪は複雑に大きな口をあけ深いラントクルフトになっているではないか。突破が難しそう!
 
 反対側はどうか?西側に下ってるルンゼは残雪はなくガレである。傾斜があるので30mの懸垂下降、更に10m程下降する。岩塔からの支稜を廻り込むとガレたルンゼが稜線にのびている。ラクに気をつければいけそうだ。

 アンザイレンし登攀開始。見た目よりいやらしい。ボロボロのルンゼでまともなホールド、スタンスは得られない。歩を進めるごとにラク、ラク、ラク!、勿論、ランニングビレイは取れないが、一旦取り付いた以上突破するしかないので、だましだましずり上がる。45m程上ると残雪のある稜線に出、いやな登り終了。ここでザイルフィックス、後続を迎える。この岩塔の通過で相当時間を食ってしまった。

 ラントクルフトを処理したほうが早かったかな?ボロボロルンゼよりは安全だったかもしれないが、クレパスに落ち込んだらこれまた大変な事態になる。結果論だがルンゼでよかったことにしよう。

大窓の頭を越えると稜線は複雑になる 池ノ平山北峰が近づくが時間切れ

剱岳主稜にのびあがる小窓尾根。最奥の雪壁が池ノ谷ガリー 5/2のビバークサイト

ここから涸れハイマツの枝を掻き分け2561mのピークへもうひと登り。時刻はとうに16時をまわってしまった。ルンゼ登攀で時間がかかり後続はまだ到着しない。眼前に池平山北峰〜南峰の壁が連なっているが、そのまえにもう一つギャップがあり更に時間がかかりそうだ。池平山まで行くのはあきらめビバークすることにする。

 2561mのピークから少し下降した雪面上で幕営。全員そろったのは17時になっていた。本日は11時間強の行動時間、地図上の距離からの推定よりははるかに時間を食うルートである。


5/3、快晴、今日の目標は早月小屋。5:45出発する。すぐ、距離は短いが鋭い雪稜、左はほぼ垂直、右は50°くらいか。落ちたら終わり、慎重に歩を進める。雪稜を無事通過、コルに急下降。目前は北峰だが尾根の直登は不可のようだ。左の雪壁の奥のブッシュにフィックスが見える。ここがルートのようである。

 雪質がよくないので念のためザイルを出す。雪壁を左斜上、ブッシュを登り向こう側の雪壁を登れば稜線である。一息入れて一投足で池平山北峰着。北側仙人池方面からのトレールがある。右にとって南峰。下降すれば小窓乗越である。


鋭く切れた雪稜から3日目スタート! 池ノ平山北峰への登行。不安定な雪のためザイルを出す

 南峰から見ると小窓ははるか下!結構あるなあ、と正面に目を移すとどっかりと小窓尾根、標高差300m弱の雪壁が小窓のギャップをはさんで対峙してるためかのしかかるような迫力がある。200m弱の急下降、途中20m、30mと2回懸垂し小窓に降り立つ。本日の1/3を消化した。30分ほど大休止!

 雪の消えたコルはさわやかな春風が通り抜け、汗ばんだ皮膚を清浄してくれる。長居したいが先が長い。行くか!9:00出発。
ゆっくりしたペースで雪壁に取り付く。幸い先行者のトレールがあり少しばかり楽をさせてもらう。尾根に出、左にとって小窓ノ王岩壁直下まで進む。メンバーの1人が体調よくなさそうなので大休止。

 池ノ谷乗越へあがる池ノ谷がリーの急雪壁と、深い谷を挟んで剣尾根の圧倒的な岩稜が眼前に迫る。コールが聞こえる。見ると剣尾根のコルCあたりに登攀者がいるようである。今年は4月中旬以降大雨があったとのこと、岩壁に残雪は殆どなく夏と変わらない条件のようだ。

 心地いい風にふかれて20年以上前の夏の剣尾根を思い出していた・・・・・メンバーは3名。。真砂沢〜長次郎雪渓〜5・6のコルから八峰を縦走、クレオパトラニードル近くのルンゼから池ノ谷ガリーにでそのまま下降、尾根末端近くのR10を攀じ登り尾根上コルEに出る。ワンビバークで尾根下半部〜コルCへ。核心部のドーム登攀後、尾根上半部をへて剣尾根の頭へ。さらに剣山頂から源次郎尾根下降、真砂沢ベースに帰着・・・・・あの時はよく歩いた。いまはもう無理か?・・・・

威圧するように高い小窓尾根 懸垂を交え小窓へ下降する
池ノ谷ガリー〜池ノ谷乗越 池ノ谷へ50m懸垂下降〜三ノ窓へ
池ノ谷ガリーの登行 大迫力の小窓ノ王

 しばらく休み三ノ窓への懸垂下降支点まで下る。ザイルを2本つなぎ50m懸垂下降、池ノ谷に降り立つ。谷中央までトラバースし重い足を引きずるようにして三ノ窓に上がる。チンネ登攀組か、テント2張りほどある。みんな楽しそうにくつろいでいる。全員そろったのが13:00、しばし休憩。

 13:40出発。ガリーの急雪壁へでる。気温は高いが雪質はよくアイゼンが小気味よく効く。1時間ちょっとで池ノ谷乗越、尾根の向こうは長次郎谷で、剣沢まで一気に下っている。右に急雪壁を登れば、待望の剣本峰が視界にはいる。あと1時間ののぼりだ。

剣本峰までもう一登り 池ノ谷乗越から八峰:雪がついていない!

剣沢上部〜立山を望む。右は別山尾根 山頂から望む早月尾根

 剣本峰着、17:00。3日間かけてやっと踏んだ山頂はやはり感激する。が、時刻もおそいので記念撮影をし15分ほどで下降開始する。早月尾根下降ポイントはすぐだ。冬は埋もれている標識も今は夏と変わらない。

 カニのハサミ上部の急壁も僅かに残雪を残すのみで今回は単純なガレ場。ラクを考慮、1人ずつ下降する。次のシシ頭の岩場も難なく通過、時刻も18:00近いので小屋まで行くのはやめ標高2800m付近の比較的平坦な所でビバークとする。

3日目に剣山頂に立つ! 早月尾根下降

早月尾根:雷鳥の歓迎を受ける

2800mのビバークサイト

5/4、今日は下山日だからゆっくりしようと思ったが4時半にもなると明るくなるのでいつもとあまり変わらず早く起きてしまった。テント撤収し6:20出発。標高差2000mの長〜い下降である。昼前までに馬場島に着けば十分なのでゆっくり下降する。途中、10数人に会う。話では、昨日小窓尾根で落石による死亡事故が発生した、とのこと。そういえば昨日ヘリがホーバーリングしてたなあ・・・つくづく思う、山で怖いのは落石と落雷!

 早月小屋で休止。真っ黒に雪焼けした、歯が2−3本抜けた屈託のない笑顔の小屋番の話:今年は4/19小屋に入った。その時は屋根まで雪に埋もれていたのに今は、地面が出るまでに雪が融けてしまった。5月に正規?の玄関から小屋に入れるなんて初めてだ。連休前に大雨が降り、連休前半も雨模様で1日晴れたぐらいだ。それで急速に融け出したんだろうが、ちょいと異常だね・・・お客さん?・・・少ないヨ!今日は予約ゼロだわね。こっちも異常か・・・・
 シリセードをまじえながら下降を続ける。下るほどに雪道より夏道をたどる割合が大きくなり、やがて松尾平の雪原を越えると雪はすっかり消える。可愛いカタクリの花をめでながら10:45、3日前より一段と春のすすんだ馬場島に降り立った。全員怪我もなく帰途につくことが出来た。

 全日程、好天だったことはお天道様に感謝!無事歩きとおせたことは、目標を持って伯耆大山の雪山〜近郊のボッカをこなしてきたからこそ得られた結果だと思う。参加者の皆さん、御疲れ様でした。・・・えっ、もう夏山のことを考えているんですか、わかります、ワカリマス・・・・・(Y.Kubo記)


劔岳概念図


■参加者:原田、高木、岡村S、赤澤、久保、以上5名

■主要装備:
 【共同装備】テント6人用×1、ザイル(60m×1、40m×1)、スコップ×2、ガスカートリッジ×5、コッフェル等炊事具一式
 【個人装備】ピッケル、アイゼン、ヘルメット、ハーネス等登攀具一式、寝具、その他春山装備一式

■ルート:難易度は積雪量と天候で大きく変わる。赤谷山〜池平山間は登下降が多く稜線が複雑に入り組んでいるので悪天の場合ルートファインディングが難しいと思う。急傾斜の雪壁、ナイフエッジが多くアイゼン+ピッケルワーク及び荷を背負っての懸垂下降は必須技術

■温泉:上市役場横の『アルプスの湯』:入湯料は600円。広い休憩室、レストラン有り。長居OK。


■復路:北陸道〜R27〜舞鶴道〜中国道経由で仮眠2時間含みで14時間。5/4 15:00出発〜5/5 5:00帰北
馬場島に到着。ビールで乾杯!


小窓尾根と北方稜線