北ア剱岳:八ツ峰縦走  2005.04.29-05.01

■陽光に輝く雪稜を求めて剣岳に出かける。2003年春は、マッキンリーのトレーニングのため重荷背負って赤谷尾根〜剣岳〜早月尾根を踏破したが、今回は軽装で愉しむ計画である。目的地?・・・勿論、残雪期の剣を代表する雪稜ルート:八ツ峰!です。
■参加者:原田、岡村S、赤澤、久保、以上4名

■主要装備:ザイル8mm×60m×1、8mm×30m×1、ツェルト×2、スコップ×2、火器、軽シュラフ&カバー、マット、ピッケル、アイゼン、登攀具、スノーバー、竹ペグ、他春山装備一式、剣沢ベースは6人用テント


剱岳主稜から望む八ツ峰

4.28 20:00、北九州発。今回も格安のレンタカーである。少々うるさく出足も悪くスピードも出ないが、どうせ急ぐ旅じゃなし・・・しかし、やはり車は車、廻せば廻すほど滑らかに、そして3−4時間も走ればそれなりの快適走行?が楽しめるようになります。

4.29 買出しを済ませ、黒部立山アルペンルート長野側基点の扇沢に到着したのが7:30。扇沢はあいにくの小雨だが、おおむね予報どおりの天候である。朝食をとり支度を済ませ9:00発のトロリーバスに乗る。20分足らずで黒部ダム。堰堤の下方に広がる高さ186mの大空間に思わず吸い込まれそうな感覚に黒部ダムのスケールを実感するが、山岳は立山も後立山もガスに覆われ輝くような景観はおあずけである。残念そうなツアー客が行き交う堰堤を歩き左岸に渡る。
ケーブルカー、ロープウェイ、更にトロリーバスを乗り継いで10:55室堂に到着。高度が上がったせいもあるが天候は黒部ダムよりは悪化、小雨にあわせて強風になる。雨具着用、ザックカバーをつけて11:15出発するが、10分もいかないうちに1名のザックカバーが突風で吹っ飛びガスの中に消えた。

黒部立山アルペンルート
長野県側起点の扇沢駅
黒部ダム。堰堤を渡って左岸へ タンポ平を俯瞰する
ワンスパンのロープウェー

【右図:剣岳八ツ峰縦走ルート概念図(剣沢ベース)】

 別山乗越に上がる雷鳥坂取付(標高:2280m)までは結構時間がかかる。室堂ターミナルが2450mだから200m程の下りである。帰りはこの200mが疲れた足腰に堪えます。45分ほどで雷鳥沢キャンプ場に着く。ここまでは、適当な間隔で立てられたポールの標識がガイドしてくれる。


 キャンプ場を通過するが、ガスは取れずしかも確たるトレールがない。剣御前小屋のある別山乗越までは悪場はないので、コンパスでNE(北東)に進路を定め登り始める。いつしかトレールに合流、2時間足らずののんびり登行の後、体がよろけそうな強烈な風が舞う稜線に出る。

 さて小屋はどっちだ?多分、小屋より別山よりに出たと思うが、視界が乏しく現在地が定かでない。先行していた登山者の言うには、右に行けばしばらくで、倒れた別山〜剣御前の標識在り、とのこと。そうすれば剣御前小屋は左である。マップで再確認、風に抗して左を取れば数分で剣御前小屋が視界に入る・・・やれやれだ。



 小屋からは、ポールの標識に導かれ剣沢小屋に20分ほどで到着。時刻は、14:35、室堂から3時間半ほどかかった。連休初日とあってテント数張りしかない。小屋から遠くないところに設営する。ありがたいことにビールは勿論購入OK、しかも幕営料は無料!。
 午後から風が一段と強くなりテントは大揺れだが、昨夜は睡眠不足、早めに飲み食いし就寝する。夜半までうるさかったテントも日付の変わる頃から収まり静かになる。



4.30 3:30起床。軽く朝食をとり、昨夜準備したビバーク装備を再確認、4:35出発。まだ薄暗いがランプなしでも歩ける。天候は快晴・微風、絶好のアタック日和となった。すでに剣沢小屋から出発した10数名の一団が一列縦隊で剣沢下降中である。我々は、横隊になったり縦隊になったりで三々五々適当に下る。正面には源次郎尾根が、その向こうには本日の目的、八ツ峰の鋸歯状の稜線が望める。


剣沢を長次郎谷出合まで550m程下降する 今日の好天を約束するブルースカイ

 平蔵谷出合が近づく。見ると前方源次郎尾根取付で先ほどの一団はなにやらミーティング中、しばらくして2組に別れ源次郎尾根末端のルンゼを登り始めた。数年前の夏季、この源次郎尾根を詰めたが、下部の岩のルンゼは春季の今は雪のルンゼになり、快適に登れそうだ。我々の取り付きはもう一下りした長次郎谷出合である。

 5:30出合着。先ほどより後続していた3人パーティも我々の少し上部で休止。尾根よりの窪地で用を足す。勿論、ヘルメット着用・・・用足し中に落石を受け負傷なんて洒落にもならないからネ。
小休止してハーネス、等登攀準備して、5:50スタート。長次郎谷は見た目より傾斜がある。デブリを避けながら思い思いにジグザグに登行する。標高2200m近くまで来ると右手に大量のデブリを押し出したルンゼが開ける。このルンゼ末端が取付である。

平蔵谷出合。右は源次郎尾根 長次郎谷に入る 長次郎谷を詰める

 少し登り左手台地で小休止。見上げると稜線はスグソコ!・・・・のようだが標高差は400m程ある。一息入れて雪壁登行開始。雪壁はよく締まり、確実なキックステップが必要だ。ここもジグザクに登るが次第に傾斜が強まる。幅広かったルンゼが次第に狭まるあたりから、一直線のスカイラインが見事な左手の雪壁にルートを取る。急壁を慎重な足運びで乗り越し、広大なプラトー状の雪壁に踊り出る。頭上の彼方の稜線までフラットな壁が続く一直線の登りである。傾斜は見た目よりきつく思わず四つん這いになるほどだ。上部は更にきついので数m起きにステップを切る。

 見下ろすと長次郎谷まで凹凸のない斜面が落ちている。スリップしたら一巻の終わり!・・・・我慢の登行でやっと稜線に出る。途中で左手にルートを取ったため着いたところは、2・3のコル。1・2のコルに出るのが一般的だが・・・まあいいか、たいした違いはない。しばらくして後続していた3人パーティも同じところを上がってきた・・・・我々が後発していても多分、先行者をトレースする・・・・と思う。


八ツ峰下半部取付の1・2ルンゼ 源次郎尾根〜剣本峰が眩しい!

長次郎谷を眼下にした雪壁の登行 上部は稜線まで雪壁が続く 2・3のコル(3峰登りから)
背景は左端が2峰、右端が1峰

稜線から望む後立山連峰(白馬三山〜唐松岳)

八ツ峰と剣岳主稜線〜本峰。左から本峰に突き上げるのは源次郎尾根


 ここから60mザイルで4名、20m間隔でアンザイレンする。コンテでの確保は難しいので、少しでも不安を感じたらスタカット確保で行くことにする。まずは3峰の登り、右手雪庇に注意してステップを刻む。3峰からは鋭いピークを連ねる八ツ峰上部が一望できる。3峰からは露岩の支点からの15m程の懸垂下降になる。アンザイレンのまま別の30mザイルを使って下降、尾根に降り立つ。続く雪稜は長次郎谷側をトラバース気味に下降、コルから4峰に登り返す。このあたり見た目程難しくない。リッジに出れば露岩、ここは2mほどのクライムダウンだが、痩せているのでしっかり確保する。やがて4峰のピーク、ここは三の窓側へ懸垂下降。次はやせ細ったナイフリッジ、確保して慎重に通過、5峰に至る。

3峰への登行開始 3峰から懸垂下降 4峰登りからの3峰。後続のパーティが見える

4峰の登り。快調にステップを刻む 4峰も懸垂下降する

剣本峰を眼前に頂稜を行く
ナイフエッジの通過はスタカットで 慎重にクライムダウン

 ピークの向う側は切り立った切れ込みで、5・6のコルである。さ〜て、懸垂の支点は?・・・・ありました!本稜の長次郎側にに突き出たニードルに残置ロープあり。少し下降してニードルに取り付くが、左右が切れていて少しいやらしい。ニードルに張り付いた雪塊に乗り上がり残置ロープにタッチする。右手は50m以上の垂直の岩壁だから、多分懸垂下降の方向は長次郎谷側だろう・・・・念のため60mと30mを繋ぎ下降してみる。途中に2ケ所の中継ポイントを見る。45mで岩壁下部の雪壁に届くが、回収がどうか?心配である・・・・結局、回収を確実にするため中継ポイントを利用、2回に分けて下降する。

 11:50、本ルートの中間地点である5・6のコル到着。ここまで雪稜・雪壁の登下降と懸垂下降が多く、結構時間を食ってしまう。しかも、どちらに落ちても三ノ窓谷か長次郎谷まで一気にダイビングすることになるので緊張の連続で気が抜けない・・・・山行のコンテンツは一級品だと思うが・・・・皆さん、少々お疲れです。

5峰からの下降支点は、ニードルの先端にある 30m+15mの2回に分けて懸垂下降 着地点は雪壁。
トラバースして5・6のコルへ

 5・6のコルまではトレールがなかったが、ここからは八ツ峰上部の縦走に先行した別パーティのトレールがある。これで少しは時間短縮になりそうだ。大休止して12:15スタート、6峰の取り掛かる。6峰はいくつかのピークがあり主峰に5枚程、岩壁を立てかけたような構成になっておりスケールが大きく、AフェースからDフェースまでクライミングルートが集中している。A、C、Dフェースを登った昔のことを思い出しながらステップを刻む・・・・ここは、天候に恵まれると長次郎雪渓を眼下に実に爽快なクライミングが味わえる・・・・別の機会に乾いた岩も愉しみたいものだ!


6峰に取り掛かる
短い岩場と垂直の雪壁 6峰登りから見る迫力満点の5峰
下降は、中央のニードル先端から写真右手に懸垂下降

 急な雪壁を登り、2m程の岩をこえるとほぼ垂直の雪壁にあたる。すでに雪が腐り、差込んだピッケルが少々甘いが思い切って乗り越し、右上ハイ松の根っこでビレイ。ここは全員スタカットで通過する。見上げると雪壁が果てしなく続いている。我慢ののぼりが続く。最初のピークは三ノ窓谷側へクライムダウン、更に登り詰めると6峰のピークに到達・・・・おっツと思わず感嘆の声・・前方に、しなやかな細身の雪稜を少しばかりくねらせた7峰が間近に迫る。

6峰は大きい。急雪壁が続く。隠れたクレパスもあるため気を抜いてはいけない

眼下に5・6のコル。2つの米粒は後続パーティ 慎重にクライミングダウン

感嘆!7峰〜8峰のナイフエッジ、クレオパトラニードルそしてチンネ。6峰のピーク目前

 6峰ピークから懸垂下降、6・7のコルへ降り立ち、引き続き7峰に取り掛かる。左はすっぱり切れ込んでいるので三ノ窓谷側をトラバース気味に右上する。緩い傾斜は行くほどにきつくなり、次第に気合が入る登行だが、はるか下方に三ノ窓谷を望むすばらしい高度感である。7峰のピークに立つ。前方に8峰がそそり立つ。7・8のコルへは、これまた高度感満点のクライミングダウン・・・・一歩一歩確実にステップを踏んでコルに降り立つ。

6・7のコルへ懸垂下降
7峰ピーク目前
最後は胸を突くような登行
7峰の登り。三ノ窓谷側をトラバース気味に登行
上部にいくほど傾斜がきつくなる

7峰より縦走路を振返る
7峰より8峰〜八ツ峰の頭 7・8のコルへクライムダウン。高度感抜群!

 8峰は、右手にトラバースし急なガリーに取り付くのがルートらしいが、トレールはない。時刻はすでに16時半を回っている。残念だが今回はここまでとし、エスケープすることにする。長次郎谷側へ50m程下降、そこから池ノ谷乗越まで登る。時刻は17時を回る。ビバーク予定の池ノ谷乗越にはすでにテント1張り・・・更に我々のツェルト2張り設営となれば相当手間を食いそうだ。

 相談の結果、広い三ノ窓でビバークすることにする。17時過ぎてもう誰もいない池ノ谷ガリーを三ノ窓まで下降する。17時半過ぎ到着。13時間にわたる本日の行動はここで終了とする。ツェルト2張り分の雪棚を切り開き、ささやかな本日の宿に入ったのは19時を回っていました。オツカレサマです。

コルから長次郎谷へ下降
傾く日差しに映える7峰 池ノ谷乗越へ一踏ん張り

三ノ窓でツェルトビバーク
ビバーク地三ノ窓へ向けて池ノ谷ガリーを下降。
正面は小窓ノ王
5.01出発準備

 今日は天候に恵まれ、非常に良好なコンディションでの登行となった。ナイフエッジの通過、急雪壁の登下降、懸垂下降、等の技術が必要だが、登行の困難度は、天候(雨風や視界の有無)や雪の状態、トレールの有無に大きく左右されると思う。従って、所要時間も然りだ。言うまでもないが登りより下降が難しい。特に雪壁の下降時のクレパスに注意が必要。不用意にステップを置けばバランスを崩し滑落する危険性が大きい。

5.01 遅めの起床、とはいっても6時には起床、7時には出発する。昨日下降した池ノ谷ガリーを登り返す。乗越で小休止。昨日のテントはあるが住人はいないようだ。多分、八ツ峰?でしょう。剣岳山頂までは、あと200m程、およそ1.5時間かかる。しっかりしたトレールがあるのでそれを追う。いくつかの登下降をへて山頂着9:10。天候が崩れ始めたのか風が強く寒いので記念写真とってすぐ下降にかかる。


5.01、剣岳〜剣沢へ向け出発 池ノ谷ガリーの登り 池ノ谷乗越。左は池ノ谷ガリー
右は長次郎谷

主稜線を行く。最奥が剣本峰
剣岳頂上の祠 剣岳最後の急雪壁からの長次郎のコル

 早月尾根分岐を示す標柱を見送り南面の雪壁を下降、続いて雪の消えた鎖場を通過、更に、長い梯子を下れば平蔵ノコルである。ここは風がないので休憩。早朝はよかった天候が急激に悪化しているようで、午後早めに雨になりそうな気配である。予定では、本日は剣沢泊りとしていたが、相談の結果、室堂に下山することにする・・・できれば扇沢まで帰りたいが。10分ほど休み、最終行程スタート。

 前剣、一服剣、等の登下降を繰り返し、剣山荘から剣沢小屋までの長いトラバースを追え幕営地に帰って来たのは 12:15。早速、テント撤収にかかる。片付けていたら早速、次のお客がお見えになる。別に急がされたわけではないが・・・13:05にはパッキング終了、13:10下山開始するが、すべてを背負うとずっしり堪える・・・・もう帰るだけだから各自のペースでゆっくり行くことにする。

下降:雪壁〜岩のルンゼ〜鎖場(ヨコバイ)〜梯子⇒平蔵のコル

平蔵のコルと剣本峰 前剣から250m一気に下降 剣山荘通過

 別山乗越までは超スローペースで登り返す。今のところ視界良好、雷鳥沢キャンプ場が眼下に見える。適当なラインを下降するが、途中から小雨が降り出した。雨具を取り出す・・・・行きも帰りも雨か・・・、しかし大事なところで快晴だったから、感謝せねばなるまい。

 キャンプj場通過、ここから200mほど登りになる。この最後ののぼりが堪える・・・・各人のペースで下山したため、室堂ターミナル着が、16時〜17時半になる。調べておけばよかったが、扇沢方面の最終便は、16時30分。残念ながら乗り遅れてしまった。さて、どこかに泊まらねばならない・・・この風雨の中、いまさら雷鳥沢キャンプ場には行く気にならない。相談の結果、室堂に着いたところで山行は終了、以後は下界?と解釈・・・ということにして早速下界の宿(立山室堂山荘)に泊ることにする。さすがに下界、立派なお風呂と美味しい夕食、そして生ビールにありつきました。

ベース到着 ベース撤収、お疲れさまでした。 下山開始

別山乗越から俯瞰する室堂平。沢の左端の米粒が雷鳥沢キャンプ場、右は奥大日岳〜大日岳。

5.02 7:45の始発便で扇沢に下山。9:20扇沢到着。朝方は少しぱらついていた雨はすっかりあがり晴れ間が広がる。
そして乾いたさわやかな春風が山行の疲れを一気に吹き飛ばす。

 温泉は何処にしようか?・・・・・硫黄尾根に入ったときタクシーの運転手が教えてくれた葛温泉を思い出す。
よし、葛温泉に決まり・・・花と新緑あふれるスプリングロード一走りで葛温泉着。
お世話になったのは高瀬川沿いにある瀟洒なつくりの
温宿(おんじゅく)かじか

能舞台のようにブナとカエデの自然林に突き出した半露天風呂、そして御湯はかけ流しで贅沢三昧!


たゆまず流れる高瀬川、季節の色を川面に映す。想い深き人もまた、心の季節を刻に映して
ふと振り返れば夢の旅人

4人の春雪の山旅、これにて終了です。又、来シーズンをお楽しみに!

Reported by Y.Kubo  Photo presented by S.Okamura & K.Akazawa
ポエムは、パンフレット:『かじか』より借用させていただきました


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