南米アンデス:アコンカグア遠征 No.2

12/19-12/26●
プラザ・アルゼンチーナ(BC)〜Camp 1 (5000m)〜Camp 2 (5800m)

12/19  本日は休養日とする。昨日の4000m前後の登りは、結構きつかったが一夜滞在後の今日は高所特有の症状はなく、平地の感覚とほとんど変わらないようだ。シュラフから出たのは10:00過ぎており、ブランチとする。

 午後になって、メディカルチェックに行ったところ誰もいない。隣のレンジャーに聞いたら、ドクターは昨日へりで下山した、とのことだ。我々は明日、C1へ荷上げする予定である。チェックはその後でいいか?・・・・・・OK、No Problem!と言う・・・・この話から推察するに拘束力はなく、アドバイス程度なのかもしれない、と思った。
これで下山させられることはなさそうだ。あとは自己管理して自己責任で行動を決めればいい。

【写真右:タオルでほおかむりしてひなたぼっこ】

 テントを出たついでにDaniel Lopez Expeditionを訪問する。ドアを開けると・・・プンタ・デ・バカスからBCまで我々と前後していたカナダ4人グループが食事をしていた。軽く挨拶、明日はC1へキャッシュ(デポジット)だ、と言うと彼らもキャッシュするらしい。

 お茶もらい、挨拶代わりに、缶ビール4本もらう。テント内は、軽快な音楽がかかり、可愛い女性がニコニコしながら、体全体でリズムに乗りながらクッキング!なかなか愉しそうである。

【写真左:Daniel Lopezの縦笛による歓迎】

 適当に遊んでテントに戻り、明日の荷上げの準備をする。計画では、2人用をベースにおき、6人用をC1に、4人用をC2に設置する予定だったが、そうすると撤収・下山が面倒だ。体調もいいので、6人用はBCに設営したまま4人用をC1、C2と移動させてアタックすることにする。そうすればアタック後、C2から1日でBCへ下降できる。

 明日20日は、BC〜C1〜BC、明後日21日、C1へ移動、レストデイを考慮すれば、27日もしくは28日がアタック日となる。従い、荷上げする食料は8日分、ガソリンは、4リッター、ガスカートリッジ4ヶとする。ハイキャンプでは、BCより風が強いことが想定されるのでテント内で炊事可能なホエーブス725を上げることにする。

 天空は青空が広がり、周囲の岩峰はいつまで眺めてもあきない風景だが、外で炊事できるほど風は弱くない・・・・今日も飲用水つくりに精出す。


12/20 今日は、C1まで荷上げする。08:30出発する。C1までは標高差:約800m、5時間程度だろう。BCの台地は、氷河のモレーンの末端にある。ガレた緩やかな踏み跡をたどれば、やがて鋭い岩峰の屹立する岩稜の裾を行くようになる。採石場のストックみたいなガレで、左手が急斜面、落石に注意が必要だ。右手は、雪渓だが、無数のドミノ倒しの牌がひしめき合うように立ち並ぶ防御柵のようなものでペニテンテスと呼ばれる。このペニテンテスは渡らずに直進、急なガレ斜上していくと、少し開けてくる。


岩稜の裾を回り込むように進むが、左手は急なガレ 今日から本格的な登山活動開始!

 正面には見上げるような岩峰が立ちはだかる。岩峰左手の谷からサミットを目指すルートが East Glacier Route、我々の予定ルートは岩峰右手奥の雪渓にある。2回ほど、ペニテンテスを横断、右手モレーンの丘を登れば雪渓の取り付きである。遠望したときは普通の雪渓のようだったが、近づくと、やはりペニテンテス!大きい『牌』は人の背丈ほどもあり、過って落ち込むと、這い上がるのにたいそう消耗する。荷があればなおさらだ。
 多くの登山者に踏まれた牌は、形が崩れ、踏み跡状になっているものもあるが、原型のままのものもある。またブルーアイスになった部分もあり注意深く登行する。標高は、既に4800mを越えており、かなり苦しい・・・・やがて傾斜が落ちたところで雪渓から左手に出て急なガレをあがれば、C1である。

 氷結した小谷を渡り一登りした台地がC1である。到着は、13:30、およそ5時間かかった。ここは標高およそ5000m、サイトは細長く結構広い。適当なサイトを見つけ荷をキャッシュする。初めての5000mなので順応の為、小休止するが、風が強くなり、ガスがでて粉雪が舞い始める。気温が相当低くなってきた。30分ほどいたが、かなり寒いので腰をあげ、14:00、下降にかかる。先ほどの雪渓は安全の為アイゼンを履く。帰りは、雪渓下のモレーンの丘からまっすぐ台地を下降する。このルートであれば末端近くでペニテンテスを1回横断すればいい。

 BC着は、16:15であった。水汲みに行くと、Danuelが、お茶飲んでいけ、というのでテントにはいると、カナダの4人組が食事していた。今日、キャッシュしたのか?と聞くと、行ったよ!という。おかしい、見かけなかったが・・・・察するにC1まで行かず、途中までではなかろうか。
明日、C1へ移動する旨、Danielに伝える。

 今日は、初めての5000m、結構疲れたので早めに就寝・・・・・勿論、ビールは飲まなかった・・・高所でのアルコールは禁物ですからネ。
夜中、小用で外に出て驚いた・・・・・雲ひとつない空には、この世のものとは思われないほどの無数の星で輝いていたのである・・・北アルプスとかの比でない、数と輝き!・・・唖然とする、くらいの驚き!・・・やはり天に近いんだ。



屹立する岩峰。C1へのルートは、岩峰の右手の雪渓
最奥はアコンカグア、その雪の斜面がポーランド氷河(Glacier de los Polacos)

数ヶ所、ペニテンテスを越えてモレーンを登り、広大な雪渓に取り付く
雪渓を越えた台地がC1である

East Glacier Routeの取付
サミットは近くに見えるが標高差は、2200m以上ある
モレーンをダイレクトに下降する
眼下はプラザ・アルゼンチーナ(BC)

12/21 今日はC1へ移動する。忘れ物ないようにパッキングしていたら、Danielがやってきた・・・いつ、どちらに下山する予定か?・・・28日もしくは29日に、此処に戻る予定だ。ノーマルルートのほうには行かない・・・・OK、君らが帰ってきたらムーラの手配をしよう!

 しばらく6人用ダンロップは張りっぱなしになるので、強風で潰れないように補強する。念のためキーロックして、08:35、出発する。
今日は途中のガレからペニテンテスを越え、モレーンの台地にあがり、直進した。ペースは昨日と変わらず、13:30にはC1の予定したサイトにはいる。

 テント設営、融水を求めて少し上方に行って見る。少しあがったところに上部雪渓からの融水があった。透明度はまあまあといったところ、融水が得られると燃料が節約できる。しかし日中はいいが、朝晩は凍結しているようだ。

 少し高度の影響はあるが、概ね良好。今日からおしいものから先に食べる・・・・ということで、夕食は、ラーメンライス!生麺に近いラーメンの味は、なかなかのものです。
昼間は、晴天で暖かかったが夕方より、次第に風が強くなり大荒れとなる。風向きはほぼ西風で変わらず・・・全てのポールから張り綱をとり固定しているが、テントは西方向から一方的に押し捲られ快眠には程遠い・・・・・しかもここの風は持続力があり吹き出したら数分頑張る・・・止んだかと思ったらすぐ次が来る、といった具合で一晩中大荒れであった。


C1設営(4人用ダンロップ) C1から望むアメヒーノ(Ameghino)のコル

12/22 明け方まで吹き荒れた風も昼前には落ち着く。今日は、レストデイ! 遅くまでシュラフのなかにいる。10時過ぎに起き、ブランチの準備。食事終わったら水汲みにいく。昨日のところは凍結しており、少し下流に下り氷を砕いて、底を流れている融水をとる。帰りに近くの大岩のところにみたようなテント2張り・・・・丁度、住人が顔をだす・・・・例のカナダ4人組であった。やあ!来てたの!・・・と挨拶。

明日は、C2へ荷上げする。アタックに必要な装備は明日すべてあげることにする。
荷上げの準備が終われば、あとは水つくり以外はすることがない・・・・ゴロゴロして過ごす。




12/23 
今日は、C2へ荷上げ。各自のザックは15kg前後だろう。C2までの標高差は、約800m、相当高所になるので、6〜7時間くらい?

 出発は、08:10。サイトの台地上端まで上がり、右に雪渓(ペニテンテス)を横断する。ルートは、アコンカグア東面と右手、アメヒーノ:Co. Ameghino (5918m)をつなぐ長大な吊尾根から広がるカールの右手から回り込むようにつけられている。尾根の最も低いところが、アメヒーノのコル(5380m)で、コルから左折して広い尾根を伝う。風がまともにあたることを除けば、岩場、等の危険箇所もなく、富士登山みたいなものである。ただただ高度との戦いになる。

【写真右:アメヒーノのコルから左折してC2へ向う】

 コルに上がらずとも、アコンカグア側に直登する踏み跡ルートもあるが、急なザレで登りにくい。時間当たり標高差150mくらいのスピードで歩く・・・・低山なら相当のろま!だが、5000m越えた高所では、我々にはそれがMax. スピードである。多分、今の体力ではこれ以上のスピードでは歩けない。

 じっと足下見つめて5時間も登れば、アコンカグア東面を正面に見てザレを右斜上する。氷結した雪渓を2つほど越えるが、氷結しているだけに、あらぬ力が入りどっと疲れる。やがて赤茶けた岩で造成したような台地に這い上がると、そこがC2である。時刻は、14:10、6時間かかったが、この高所だから上出来だろう。

 やはり息苦しい・・・・5800mだけのことはある。テントは数張りしかなく、いくつかのサイトにはキャッシュがある。幾パーティか荷上げしているようだ。

 風除けの石積みのしっかりしたサイトには、積雪があるか氷結があり、理想的なサイトはなさそうだ・・・・・ウロウロしたが、わりと平坦で石積みもあるキャッシュのないサイトを確保する。

【写真左:C2からの、Glacier de los Polacos】

 キャッシュするギア類を、2人用テントの外張りに包み、縛った上、重しの石を十分な量置く。ここは見るからに風が強そうだ。

 正面には、広大なポーランド氷河が視界いっぱいに広がる。見えている部分で、標高差は、700-800mあるはずであるが、そんなにあるようには見えない。左手の岩峰(ピエドラ・パンデラ)まで、400mもあるとは・・・全部見えているから、なかなか距離感がつかめない、が実は広大な壁なのである。

 幾筋かアイスの部分が縦に垂れ下がっている。取り付けば、雪壁ではなくアイスクライミングになりそうだ。また、みた限りでは全体の平均傾斜はさほどないが、良く見ると急傾斜部分が数ヶ所ある。ここからは全体が眺められ、ルートを目で追って想定することは可能だが、壁に取り付いてしまうと多分何処にいるかわからなくなる・・・・まず1日では登りりきれまい・・・・1ビバークは必要だ。しかも、6000mを越える高所での登攀!・・・・ひと目見て、直感として我々のパーティの力では極めて困難と悟る・・・Falso de los Polacos Route に転進!しかない。

 初めての5800mである。しばらく休むが、またしても風が強くなり、ガスがでて粉雪が舞いだした。C1よりはるかに気温が低い・・・・早々と退散することにする。15:00、下山開始、16:30、C1到着。夕方から風はうなり、雪が舞い始める。積雪することはない、との情報だったが・・・大丈夫だろうか


アコンカグアを陵駕せんとする巨大な高峰?を思わせる雲 (アメヒ-ノのコルに向うカールより)

砂礫のカールの上部から、C1(中央手前の台地)、彼方にアコンカグアを遠望できた
カサ・デ・ピエドラの河原、Relinchos谷(中央部の谷)を俯瞰する

12/24 昨日夕方から大荒れ・・・あけても風はおさまらない。ダンロップテントは、強風の波状攻撃を終日受ける。今日は、レストデイだから、停滞兼ねて丁度よかったが、それにしても凄い風である。こんな日は寝るに限る。午後になって、幾分おさまる。
風の合間を見て、レンジャーが訪ねてきた・・・Hello! 顔を出すと・・・Oh、Japanese! Are you OK?・・・・Yes、we are OK, and there's no ploblem. レンジャーは、テントがつぶされたようになっているのをみて訪ねてきたようだ。チェックしたが、ポールは破損してなく、本体が強風で一方側に押し付けられているだけであった。我々の4人用は古いバージョンで、ポールの径が大きい。同じ強度だとして材質を変え径を小さくした最新バージョンのほうがなんだか頼りない?

明日は、C2へ移動する。ごく一部を除き残りは全て荷上げすることになる。C1も今晩限りでお別れだ。


12/25 ゴミ袋、ガソリンの余り、などをC1にキャッシュ、残りは全てパッキングして、08:20出発する。今日はC2泊まりだからのんびりいくことにするが・・・・荷上げ時と余り変わらない 13:30、C2に到着した。早速、テント設営する。前日よりは、息切れが少なく比較的楽である。

 テントが立つと次は水!融水などなさそうなので、近くの氷を砕くことにする。アイスバイルを振っていたら、登山者が近づき、スペイン語で、向こうの氷河で表面の氷を割れば、融水がある、と言っているらしい、そして何度も向こうに行けと、身振り、手振りで勧める。もう既に氷採取済みだったので・・・・Thanks. But we have already got the ice.・・・・わかった、といって立ち去った・・・あす、行ってみるか。

氷河末端の台地上にC2設営。標高は5800m、風強く、気温はかなり低い

12/26 今日はレストデイ!天候は、晴れで風もおさまりいい日和になった。アタック日和かもしれない・・・・昨日、今日のアタックを考えたが・・・待て待て、早まって失敗した例がウェブサイトに結構出ていた。やはり定石どおり、最低1日は滞在したほうがいい。ここまで来て、体調を崩せば、場合によってはBCまで一旦下らねばならないかもしれない・・・・やはり今日は予定通りレスト!

レストデイの朝はいつも遅い。例によってブランチ・・・・だが、そろそろ食料が少なくなってきた。種類も限られる・・・飲み食いだけが楽しみだがそろそろ底をつきそうだ。

 昼過ぎに氷河の末端まで行く。昨日、登山者が言ったように氷の下を融水が流れている。適当なところを割り、融水をとるが、その冷たいこと!そうでなくとも低温、早々と引き上げる。
午後になって、1人の登山者が訪ねてきた。アメリカ在住の日本人で、M.Kimishima  メンドーサのPermit Officeで聞いたところ、バカス谷経由で入山したのは今のところ日本人は3名のパーティだけ、と。BCで、ダンロップテント発見!間違いなく日本のパーティ!・・であとを追って昨日ついた、とのこと。聞くと、Mr. Kimishimaは、ムーラを使わず自力で、50kg近い荷を上げた!とのこと・・・・Oh, unbelievable!といいたくなる・・・BCまで約42km、荷を全部担いだなんて!・・・しかしそういう人がいるのかもしれません。

 ポーランド氷河ルートについても情報があった。アコンカグアは、12/15よりハイシーズンだが、日本でいえば、6月みたいなもの、まだまだ天候不順で積雪も不安定だ・・ポーランド氷河ルートについてBCでの現地ガイドの話では、・・・時期尚早、やめたほうがいい、とのアドバイスを受けた。遠くから見れば、たいした傾斜でなくスキー場の延長くらいに思ったが、目の前の氷河を見る限り、とても登れそうにない・・・・・最近では、ダイレクトルートのほうが好まれる、こちらのほうが距離が短く短時間でいけるからだそうだ・・・・等々。

 そのようなわけで、Mr. Kimishima も Falso de los Polacos Route からサミットを目指す、とのことだ。
更に、自分は荷が重く時間がかかるので、今日、6400mのインディペンデンシア小屋辺りまであがり、サミットをねらう!・・・・そのようなわけで、彼とは明日の再会を楽しみに夕方お別れとなった。

明日の好天を期待して早めに就寝。



C2より望むアンデス(北方)
岩稜の裾を巻いて砂礫の斜面を右斜上、Normal Route
に合流する、Falso de los Polacos Route
アメヒーノのコルの真向かいは、Co. Ameghino

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