九州脊梁 耳川・上ノ小屋谷〜山ノ池谷〜国見岳
2007.10.20-21


 『上ノ小屋谷』は、1982年発行の、白山書房版『日本百名谷』で紹介されている。しかし、岳人版『新・百名谷』(岳人2004年8−9月号)では落選!
 いくつもの堰堤、上ノ小屋あたりまで延びた林道、そして源頭部の林道、等も当然落選理由に入るだろう。紹介された当時は、こんな人造物はなかったのだろうと思う。上ノ小屋谷をめぐる状況が大きく変わってしまったのだから・・・・しかしこれらはすべて我々人間の仕業!
 『華がない、ほかにもっといいのがあるのでは?』 とのコメントもついているが・・・(同岳人)

 最近の記録を見ると、下流部の堰堤を避けて、上ノ小屋林道を1時間ほどつめ入渓しているパーティが多いようだが、下流から遡行しても1、2時間くらい余計にかかるだけだろうし、どうせ泊まりだから時間に余裕がある。堰堤、林道など人工物を無視、我慢すれば、かつての名渓の面影を愉しめる・・・・そんな思いで、耳川出合いにかかる平瀬橋から取り付くことにする・・・

参加者: 
 
原田、伊津見、赤澤、久保、以上4名(写真右:平瀬橋にて)

コースタイム 
10月20日:
 平瀬橋(07:20)〜上ノ小屋林道橋(09:30)〜岩小舎(10:15)〜15m滝(12:20)〜20m滝(13:15/13:30)〜小国見谷出合(13:45)〜12m滝(14:00)〜30m滝(14:20)〜山ノ池谷出合(14:35)〜ビバーク地(14:40)

10月21日: ビバーク地(07:10)〜(山ノ池谷)〜20m滝(07:30/07:45)〜門割林道(08:25)〜稜線(08:45)〜長谷分岐(09:45)〜国見岳(10:00/10:30)〜長谷登山口(11:00)〜(門割林道)〜雷坂取付(12:00)〜入渓地:平瀬橋(13:30)



上ノ小屋谷〜山ノ池谷〜国見岳登行ルート概念図


SECTION. 01

 取り付きである平瀬橋を渡るとすぐ左手に崩壊しかけた廃屋があり、2,3台駐車可能なスペースがある。隅に駐車、支度する。少し戻り平瀬橋から入渓するが、標高差:1150 m、水平距離:9 kmの上ノ小屋谷はいきなりゴルジュからスタートする。しかし少し進めば、すぐ堰堤が行く手をふさぐ。この谷は、きちっとした遡行図があるのでがっかりはしないが・・・・・左手から巻いていくと、群青色の淵に出る。水が澄んで綺麗だ。右から越えると・・・・今度は、大きな流木防止鉄柵がある。これは遡行図にはない。鉄柵の間をすり抜けて上流へ向かう。

 ここから、淵、釜のある滝、河原、ゴルジュ、それと堰堤、様々・・・変化に富んでいるとはいえなくもないが、困難なところはなく、岩棚を行くか、へつるか、ジャブジャブいくか、小さく巻くか・・・・・いずれかですべて通過し、5番目の堰堤を越えると目前に立派な橋が横切る。これが、谷の右岸につけられた上ノ小屋林道のようだ。入渓して、およそ2時間で橋をくぐる。

 この間は、際立つ所は少ないが、S字ゴルジュ:膝くらいまで渡渉で、巻く場合も楽、またよく澄んだ大きな釜を持つ8mの滝もいい・・・・・なんと言っても、水が綺麗で澄んでおり、魚影がめまぐるしく動く・・・これだけでも遡行してよかったと思う。

 参加者の皆さんの感想: 林道歩き or 谷歩き、どっちを選ぶ?・・・・勿論、時間かかっても堰堤があっても谷歩きの方がいい!、と皆さん回答。

平瀬橋から入渓、すぐ堰堤や鉄柵が現れる
本来はこのような渓相だったのでしょうか?
いい気分に浸っていると・・・2番目の堰堤 しかしその上流のS字ゴルジュで落ち着く
すぐに3番目の堰堤! 上流は、苔のある岩の間を緩やかに!・・・・
ガイドブックで見たような?
群青の釜から真っ白な帯を引き抜いているような、8mの滝 4番目の堰堤
淵を動き回る魚影をに見入る

大岩を縫う流れのように、逆に縫うように遡行を続けるが・・・結構疲れます!
5番目の堰堤。ここを越えると辺りが開け前方に橋が現れる・・・・上ノ小屋林道でしょう


SECTION. 02
 上ノ小屋林道の橋をくぐれば、源頭の林道に出るまで人工物とはお別れである。相変わらず水の綺麗さには目を奪われる・・・美しい釜のある小滝を右からあるいは左から越していけば大きな岩小舎に出る。

 岩小舎通過が、10:15、ここから1時間ほどは平凡になったりゴルジュになったり・・・・千変万化!釜を持つ滝が多く、その突破が結構愉しめる。へつりが多いが直登出来る滝もあるゴルジュといっても全体的に浅く、谷幅が広いので圧迫感とか全く感じない。釜に日が差すと、釜は一際その碧色を深め、魚影は絶えることがない・・・・・11:20、日の当たる河原で一息入れ、現在地を地形図で確認するが・・・・標高900m位か?もう少しいけば、S字ゴルジュ、と思われる。

橋をくぐれば、もう人工物とはお別れだ・・・・・とにかく水が透き通って綺麗!

岩小舎(写真左)を過ぎれば・・ 平凡になったりゴルジュになったり千変万化!
釜を持つ小滝が多く、その突破が愉しい!
岩小舎通過、10:15、1時間ほど谷歩きを愉しんで、11:20、日の当たる河原で一息入れる(写真右下)


SECTION. 03
 入渓して4時間以上経過、ビバーク予定地まで9時間程度と見込んでいるので、この辺りからいよいよ後半戦である。これから落差のある滝が出てくるので、遡行マップ上の現在地がわかりやすくなる。
 幾つかの小滝と日差しに輝く碧色の釜を通過していけば、谷は幾分平凡になる。しばらくいけば、またゴルジュ帯に入る。ここは右岸の岸壁が一際高く、少々薄暗い。
 
 ゴルジュを出て明るい河原に出ると、左から左谷が出合、行く手には、小滝の向こうに、はじめて滝らしい15m滝が姿を見せる。遡行図では、2条15mと記載されている滝である。ここはS字ゴルジュで、谷が大きく蛇行した部分である。地形図での標高は、丁度975m。

幾つかの小滝と碧色の眩しい釜を通過すれば、一旦、谷は平凡なる
右岸の岸壁が際立って高く、すこし薄暗いゴルジュを抜ける(左上→右→左下)
左に左谷を見送れば(左)はじめて滝らしい15mの滝が現れる(右)

 
SECTION. 04
 今日はじめて出合う滝らしい滝である・・・・15mだが、やはりこれくらいのが無いと欲求不満に陥るかもしれない。岸壁の水路を滑り落ちるように流れる滝はすこし斜めから眺めればなかなかいい姿をしている。直登は不可能だから、左岸の岸壁から巻くことにする。易しそうな岸壁だが、浮石や草付もあるし岩が一部濡れている・・・安全のためザイルを出すことにする。

 滝上に出ると又ゴルジュに入る。へつったり大岩に這い上がったりして通過していけば、両岸が鋭く切りたつ典型的なゴルジュになる。距離は短いが、雰囲気がよろしい・・・この辺り流木が小滝をふさぎ、通過に腕力を要する・・・・・やがて奧に姿の美しい、釜も澄んで綺麗な20m幅広の大滝が現れる。

 6時間遡行してようやく出会えた大滝!姿も釜も美しいだけに非常に価値のあるもののように思える・・・・しばし滝見物。
直登は勿論不可能。この滝も左岸から高巻く。ここは大きく巻かなくとも、滝側の壁すれすれを通過できる。滑落の危険があるので慎重に通過すれば、そのまま落口に出られる。

左岸の易しそうな岸壁から巻くようにして落口に出るが、念のためザイルを出す
15mを越せば又ゴルジュに入る。へつったり大岩に這い上がったりして通過していく
(左上)ゴルジュの中の大岩を越えていくと、(右)短いが両岸が切りたった典型的なゴルジュになる。
(左下)流木の詰まる小滝を乗越すと・・・・20m幅広の大滝に出る
釜も滝の姿も整って美しい20m幅広の大滝。
(写真右)左岸から小さく巻くが、きわどいトラバースがあり細心の注意が必要だ

 
SECTION. 05
 谷に戻ってしばらくいけば、小国見谷の出合である。右岸から滝を懸けて出合う。遡行図ではもう少しで、30m大滝に出るはずだ。この辺りからそろそろ寝場所を物色する。ここまで来れば明日は楽勝!いい所あれば泊まるつもりである。

 本谷をいけば、12m斜滝に出る。右岸の方が易しそうだ。しかし落口の状態が不明なのでザイルを出す・・・・・・案ずるほどのことはなく、すんなり落口に出る。滝上は、幅の狭いゴルジュ帯だが、水量は少ないので難なく通過、小滝に障害物:流木を跨いだりくぐったりして越していけば・・・・・本谷最大の30m大滝登場!

 落差は、20m幅広より有るが、見た目は20mの方がいい。ここも左岸から高巻くが、注意深くルートファインディングすると小さな巻きでピッタリ落口に出られる。30mを越したら、この谷の滝はほぼ終了したも同然だ。
 明日は、国見谷、長谷、山ノ池谷のいずれかを遡行して、門割林道に出で国見岳を目指すのみである・・・・さあ、今日の塒(ネグラ)を探しましょう!

釜のある4mを越せば、小国見谷(写真右)が出合う・・・そろそろ本日の終了が近づいてきた
12m滝は左から落口へ抜ける 12m滝を越すと狭いゴルジュ帯にはいる
跨いだりくぐったりして障害物:流木をかわしてゴルジュを進めば・・・・
本谷最大の30mの大滝登場
本谷最大の30m大滝。ここも左岸から巻くが、
注意深くルートを選べば、小さな巻きでピッタリ落口に出る


 SECTION. 06
 塒はすぐ見つかった。30m大滝を越せば河原になる。谷が左へカーブする左側に台地があり、その正面に山ノ池谷が出合う。カーブしたらすぐ右手が河原である。二俣までいけばサイトはあるが、ここでも十分!明日も天候は上々、雨の降る心配はない。すでにお泊まりモードになっていたので・・・・・宿泊地は、ココ!と即、決定!時刻は、14:40、本日の行動時間は、計画より短く、7時間20分でした。

 何はともあれまずビールを漬ける・・・あとは装備を解いて靴を履き替え、寝床の準備にかかる。3人は、整地〜ツェルト設営、1名は焚き火にかかる。1時間ほどですべて整い、今日もめでたくささやかな酒宴を催すことが出来ました。

 今日は、釣り師も含めて誰にも会わなかった。実に静かな山域である。思えば、盛夏はともあれ朝晩の気温が一桁になる今の時期、沢登りなんぞに来る人はもともと少ないだろうし、しかもここは九州最奥の地だしね・・・・・この谷、前半は水も、淵も釜もよかったが、大きな滝がないためか気持ちを集中させるものに欠ける。しかし、15m滝以降は、滝とゴルジュのコンビネーションがよく、割と密度の濃い遡行になった・・・・
 
 全体通してみると、やはり少々退屈な、山奥にひたひたにじり寄っていくようなゆったりした谷歩きが、上ノ小屋谷の”売り”なんだろう・・・・・ゆったり流れる谷の河原で焚き火を囲んで一杯飲めば、じわりとこの谷のよさが心に沁みてくる。
 連続する滝をひたすら登る市房山の山之口谷もよかったが、それと対極に位置しそうな今日の谷歩きもなかなかいいねえ・・・・・

 決して、二者択一!という訳にいかないのが沢登!

 夜の帳が下りるとともにオヤスミとなりましたが・・・・夜は相当気温が下がり冷え込みました。標高1200m近い谷間ですから当たり前といえば当たり前ですが、軽量化といっても夜震えないですむくらいの装備は必要です。

30mを越えれば河原・・・どこでも泊まれそうだ。山ノ池谷を右に見送りすぐの左岸の河原をビバーク地とする
本日のビバークサイト、小川のほとりのようなサイトです


明日は、国見岳(1738.8m)を目指します!  

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